阿久悠顕彰モニュメント
阿久悠 愛と希望の鐘

高田屋嘉兵衛公園 ウェルネスパーク五色
〒656-1301 兵庫県洲本市五色町都志1087 TEL:0799-33-1600(代)
ホームページ : http://www.takataya.jp/

阿久悠・愛と希望の鐘

 向かい合う(自分ともうひとりの重要な存在である「あなた」)が手を取り合う姿をイメージしたフィギアがモニュメントを構成しています。
 阿久悠士の作品の中で最も多用した言葉は、「あなた」であり、このモニュメント制作のテーマである「あの鐘を鳴らすのはあなた」の中でも「あなた」という言葉が多用され、自分以外のもうひとりの存在が希望への支えとなっています。
 鐘は、二人が同時に紐を引くことで鳴らすことができ、その音は調律の基準音で阿久悠(You Aku)のイニシャルのAでもあるA(ラ)の音としました。
 モニュメントは「ふたり」や「出会えた喜び」を感じ二人で分かち合える場所として、また、このモニュメントによって、阿久悠を顕彰するとともに洲本市五色地域の観光の目玉になるものと確信しています。
 なお、このモニュメントは、「阿久悠・愛と希望の鐘」と命名しました。モニュメントは、高さは約6m、4本の支柱の間隔は、約2.5m程度で、中央上部には、直径約50cmの鐘をつるしています。
 なお、モニュメントの上部には、太陽光パネルをはめ込み、照明灯の電力を賄うように設計されており、環境にも配慮しています。

あの鐘を鳴らすのはあなた 〜「あなた」にまだ逢えない

 ♪あなたに逢えてよかった
  あなたには希望の匂いがする……
と、暗い時代の中で書いた。昭和四七(一九七二)年のことである。時代というもの、いつも今がいちばん暗いと思わせる黒魔術を使うから、なかなか他の時代と比較がし難いのだが、その年、非常に暗かった記憶がある。
 七〇年安保から二年目、社会や人は大急ぎで精算しようとした秩序の、急ぎ過ぎたが故に凶器を産んだ理解し難い悲劇を暗いと感じた。連合赤軍による浅間山荘事件、集団リンチ事件が前年十二月から二月にかけて起こる。五月にはテルアビブ空港で日本人による乱射テロが発生、八月のミュンヘン・オリンピックもテロの標的となった。
 こんな時代だからこそ、
 ♪あなたに逢えてよかった
  あなたには希望の匂いがする……
と書かなければならなかったのである。ラブソングであると思えば思えるし、ラブソングでないと思うと、そうも思える。
 そもそも「あなた」とは一体誰のことであったのだろうか。そんな時代の中での遭遇を希望と感じられるあなたが、ただの恋人やボーイフレンドであるわけがない。ましてや、和田アキ子がより大きく見えるようにと歌った歌なのだから……。
 面白かったり、心やさしかったり、親切であったり、また、長い髪で、細いジーパンが似合って、ギターを小器用にかき鳴らして、自由そうに見えて、何にも拘束されたくなくてすぐに旅に出るーー そういう好ましい若者の姿と、この「あなた」は明らかに違う。
 何しろ、♪町は今 眠りの中……にあり、♪人はみな 悩みの中……にあり、また♪町は今 砂漠の中……にあり、♪人はみな 孤独の中……にあり、だからこそ、♪あの鐘を鳴らすのはあなた……と期待するのだから、「あなた」のスケールはやや日常を越えなければならないのである。それくらい暗い時代というのは、幕で光をさえぎっていたのである。
 さて、それから三十余年、あの時に逢えたはずの「あなた」に、ぼくらはまだ逢えずにいる気がする。三十年前と今と、どちらが暗いかというと三十年前だが、どちらの空気が重く苦しいかというと、それは、今である。どうしても。「あなた」を見つけたい、「あなた」と出逢いたいと思うではないか。
 和田アキ子はこの歌を今も熱唱してくれているそうで、そのことは嬉しいのだが、それにしても、たった一人の「あなた」が見つからない時代や社会は、一体どうなっているのかと、こちらの方は悲しくなる。

「歌謡曲の時代」(新潮文庫)より

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